「展覧会の絵」とは、ロシアの作曲家ムソルグスキーによって作曲された組曲であり、視覚芸術と音楽を融合させたユニークな作品です。この組曲は、友人である画家ヴィクトル・ハルトマンの遺作展を訪れたムソルグスキーが、その感動を音楽で表現したものとされています。この記事では、「展覧会の絵」の背景や各曲の魅力をわかりやすく解説します。
ムソルグスキーと「展覧会の絵」の背景
ムソルグスキーは19世紀に活躍したロシアの作曲家で、民族色豊かな音楽が特徴です。1873年に亡くなったハルトマンは、ムソルグスキーの親友であり、多くの建築デザインや絵画を残しました。1874年、サンクトペテルブルクで開催されたハルトマンの追悼展覧会を訪れたムソルグスキーは、そのインスピレーションから「展覧会の絵」を作曲しました。この作品はもともとピアノのために書かれましたが、後にラヴェルなどの著名な作曲家によってオーケストラ用に編曲されています。
「展覧会の絵」全体構成
「展覧会の絵」は全10曲から構成されており、その間を「プロムナード」と呼ばれるテーマが結び付けています。「プロムナード」は展覧会を歩きながら次々と絵を見る様子を音楽で表現しており、各絵に触れるたびに異なる雰囲気を持つ楽曲へと繋がっていきます。
プロムナード
「プロムナード」は組曲の冒頭であり、ムソルグスキー自身が展覧会を歩くときの心の動きを表現しています。重厚感のある音楽が特徴で、堂々としたメロディが聴く者を作品の世界へと誘います。このテーマは繰り返し登場し、そのたびに異なる編曲やテンポで演奏され、新たな絵との橋渡しをします。
各曲の魅力
「こびと」
第1曲「こびと」は、奇妙な動きをする小さな人物を描いたとされるハルトマンの作品にインスパイアされています。この曲は不規則なリズムとひねりの効いたメロディが特徴で、こびとの滑稽さや奇妙さが鮮やかに描かれています。
「古城」
第2曲「古城」は、廃墟となった古城を背景にしたハルトマンの作品をもとにしています。哀愁漂う旋律がフルートやオーボエによって奏でられることにより、失われた過去への郷愁を表現しています。
「チュイルリーの庭」
第3曲「チュイルリーの庭」は、パリの公園を舞台にした作品で、子供たちの遊ぶ様子が描かれています。軽快で生き生きとした音楽が聴く者を楽しませ、都会の喧騒を感じさせる雰囲気を持っています。
「ビドロ(牛車)」
第4曲「ビドロ」は、ハルトマンが描いた大きな牛車の絵をもとにしています。重厚で力強い弦楽器の音が、牛車がゆっくりと進む姿を描き出します。曲の中盤にかけて力強さが増し、聴く者に迫力を与えます。
「卵の殻をつけた雛のバレエ」
第5曲は、ユーモラスで可愛らしいバレエ曲です。ハルトマンがデザインした幼い雛の舞台衣装をイメージしており、ピアノの軽やかなタッチが雛たちの愛らしさとコメディーを表現しています。
「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」
第6曲は、2人のユダヤ人を描いた絵に基づいています。厳かなサミュエルと気の弱いシュミュイレの対比が鮮やかに表現され、異なる音楽的テーマが対話する構成となっています。
「リモージュの市場」
第7曲は、フランスの市場の喧騒と活気を表現しています。速いテンポと絡み合うメロディが商人たちの会話や市場の賑わいを生き生きと描写しており、聴く者に市場の臨場感を伝えます。
「カタコンベ」
第8曲「カタコンベ」は、パリの地下墓地を舞台にしたもので、荘厳で不気味な雰囲気を持っています。低音の響きが異世界へ引き込むような効果を発揮し、死と向き合う深遠なムードを作り出します。
「鶏の足の上の小屋」
第9曲「鶏の足の上の小屋」は、ロシアの伝説の魔女「バーバ・ヤーガ」の住む小屋を描いたもので、激しいリズムと賑やかな音楽が聴く者を魔女の世界へと引き込むような力があります。
「キエフの大門」
最後の曲「キエフの大門」は、ムソルグスキーがイメージした大きく壮麗な門を描いたものです。荘厳で力強い音楽が、組曲全体を壮大に締めくくるフィナーレとして印象的な役割を果たしています。
終わりに
ムソルグスキーの「展覧会の絵」は、視覚からのインスピレーションを音楽で表現した偉大な作品であり、リスナーに一つの美術作品鑑賞の旅を提供します。ピアノ独奏版もオーケストラ版も、それぞれの魅力があり、新たな聴き方によって異なる感動を味わうことができます。初めての方でもこれらの背景や曲のイメージを理解することで、より深く「展覧会の絵」を楽しむことができるでしょう。
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